2024 年 10 月に参加したイベント報告 ~ 特別展2ヵ所、地方史研究協議会第74回兵庫大会 ~

(本記事は、History Tech Advent Calendar 2024の11日目の参加記事です。)

10月

『中山道と本陣-本庄宿と太田宿-』(本庄早稲田の杜ミュージアム: 本庄市)

2024年10月12日、本庄早稲田の杜ミュージアムを訪れ、特別展『中山道と本陣-本庄宿と太田宿-』と、同時期に開催されていた『埴輪-本庄とその周辺地域における埴輪の導入から終焉まで-』を見学してきました。

埼玉県本庄市は初めての訪問でしたが、思いがけず交通の便に苦労しました。関東圏へは新幹線で行くこともないだろうと思い、高崎線で向かいましたが、ミュージアムは新幹線駅近くにあり、予想以上に距離があり移動に手間取りました。次行くときは新幹線で行った方がよいかもと思いました。また平坦な町のようなので、シェアサイクルのようなサービスがあれば便利そうです。

常設展及び埴輪展では、多くの埴輪が展示されており、本庄市が古墳の多い地域であることを初めて知りました。親しんでいる奈良のように、歴史の古い地域であることを知ることができ、しかも入場料無料という点も魅力的でした。

特別展『中山道と本陣』を訪れたきっかけは、群馬歴史民俗研究会でご一緒している研究者の方が学芸員として企画された展示だったからでした。展示では、本陣の宿泊記録である『休泊帳1』を中心に、宿場町の様々な記録が詳細に紹介されていました。同じ宿場の本陣同士が、普段は大名宿泊予約競争をしながら、急な宿泊バッティングの際は協力体制を敷き宿場としての面目を保つなど、興味深い事実を多く学べました。和宮降嫁のような歴史的出来事を、道中を記録や遺品で追うような展示も興味深かったです。

展示見学後、そこそこ距離のあるJR駅まで歩きつつ、途中で普段から協力している石仏道路元標の現地調査に取り組もうとしました。この辺は庚申塔の多い地域のようで、周辺はすでに多くの調査が報告されているのですが、それでもその合間に未発見の庚申塔を多く見つけることができました。しかし日没が迫っていたため、目指していた道路元標まではたどり着けず、断念しました。本庄に来たのは午後からでしたが、もっと早く午前から来るべきでした。

『歴史の未来』(国立歴史民俗博物館: 佐倉市)

2024年10月14日には佐倉市の国立歴史民俗博物館を訪れ、『歴史の未来―過去を伝えるひと・もの・データ―』展を見学しました。この特別展は、山形大学で行われており、非常に共感を感じている「まちの記憶を残し隊」の活動と問題意識が重なっていたので訪ねたのですが、予想外にも「残し隊」の活動が展示として取り上げられており、驚かされました2。「現在」を歴史として「未来」に残すことの重要性を再認識しました。

歴史の未来タイトルボード
歴史の未来タイトルボード

過去に関する展示で特に印象的だったのは、琉球の史料が山形で発見された事例です。沖縄戦などで失われた資料が遠隔地で生き残っていたこの事例は、地理的に離れた場所で資料がバックアップ的に保存することで未来に残る可能性が増すという意味で、私が常々主張している、史料のオープンデータ化により史料が未来に残される可能性が増すとする指摘を、ある意味裏付けるものと感じました。また別の個所では、阪神淡路大震災時に一緒にボランティア活動をしたイラストレーターのチラシが史料として展示されており、自分の人生の中の活動も歴史の一部となっていることを実感しました。歴博の様々なデータベースやIPFS3についても、新たな知識を得ることができました。以前筆者が友人の会社と共同開発した、中世の武士団特別展で使用された佐賀と益田の灌漑施設をマップで閲覧するシステムも紹介されていました。

阪神淡路大震災時に一緒にボランティア活動をしたイラストレーターのチラシ
阪神淡路大震災時に一緒にボランティア活動をしたイラストレーターのチラシ

展示見学後は、レンタサイクルを利用してユーカリが丘付近まで、往復14kmの行程に足を延ばし、佐倉町、臼井町、志津村の道路元標を調査しました4

地方史研究協議会第74回兵庫大会(甲南大学: 神戸市)

2024年10月19、20日は、所属する地方史研究協議会の、第74回兵庫大会に参加しました。私にとってこの大会は、昨年の第73回館林大会に続く2回目の参加となります。今回は筆者の地元である兵庫県(生まれは姫路市)での開催だったので、特に関心を持って臨みました。日本全国が会場になりうるので、毎年欠かさず参加するのは難しいかと思いますが、来年は福島県での開催予定とのことで好きな地域が続くため、できる限りは今後も参加を続けます。

大会テーマと内容

今回の大会テーマは「五国の多様性と交流―兵庫地域史研究の新たな試み―」でした。兵庫県は「播磨」「但馬」「淡路」「摂津」「丹波」の5つの令制国が組み合わされて成立した県5であり、地理的にも文化的にも多様性に富んだ地域です。筆者自身も「播磨」姫路出身としての当事者性を持っており、そのイメージからは「兵庫」は「バラバラ」というイメージが先に立っていましたが、歴史的な様々な角度の視点から見ると、縦横に走る街道や公益を通じて、摂津や但馬など他地域との交流や相互作用は多く存在したことを知ることができ、新たな視点を得られました。
ポスターセッションでは、地元の自治体や博物館、歴史研究団体による活動紹介が行われ、多くの冊子や資料が展示されていました。筆者も牛頭天王や天神信仰、赤松氏に関する冊子を購入しました。

会場で販売されていた冊子群
会場で販売されていた冊子群

石仏調査と庚申塔

会場である甲南大学の学生が作成した、大学周辺の史跡マップを参考にして、庚申塔の調査も行いました。「みんなで石仏調査」の中では、地元兵庫では初めてとなる庚申塔を報告する機会となり、さらにGoogle Maps上で検索すると、西宮付近までの間にさらに数件の庚申塔があったので、足を延ばして訪問調査しました。

しかし、既に大量に調査済みの本庄市で新たな庚申塔を多数発見した経験と比較すると、兵庫ではGoogle Maps上で既にPOIとして存在する庚申塔すら、調査では未報告であった現状に課題を感じました。庚申塔自体が少ない地域なので、調査が興味をひかず、参加者が少ない/いない状況が影響しているでしょう。どうしても悉皆調査にはなりえない、集合知的調査の限界も改めて実感しました。

会場近くの庚申塔
会場近くの庚申塔

技術活用と共有

また夜一泊した間に、先述の学生制作の紙マップをスキャンし、「Maplat」で街歩きアプリ化する試みも行いました。このアプリへのアクセス用QRコード付きチラシも50枚ほど用意しましたので、大会参加者にも共有したかったものですが、学生には伝えてチラシも手渡したものの、把握している限り他の参加者には伝えられなかったようで、今後の課題として残りました。

  1. 休泊帳の面白話として、その学芸員さんの論文抜き刷りをいただいた際、休泊という文字を見て、群馬県の歴史なので邑楽館林の灌漑を行った偉人「大谷休泊」の研究だと思ったことがありました。その偉人の方、とても興味あるんですよと話したら、数分まったく話がかみ合いませんでした。 ↩︎
  2. 「残し隊」のイメージキャラクター、「隊のおかしら」がしゃべったのもびっくりしました(笑)。 ↩︎
  3. InterPlanetary File System、ピアツーピア(P2P)ネットワーク上でデータを保存・共有するための分散ファイルシステム。 ↩︎
  4. Google Mapsの経路検索で自転車が通れるとされていた場所に石階段があるなど、予想外の障害もありました。 ↩︎
  5. マニアックに言うと、備前、美作も一部あるのですが。 ↩︎